黒霧島水割りの最高の割り方に近づく【大人の実験】
黒霧島は全国的にも有名な芋焼酎です。本記事では、筆者が最もおいしと思う、黒霧島の水割りを求めるまでの実験とその結果について紹介しています。基本的には、実験方法と結果だけ読んでいただければ、わかる構成です。実験レポート的に見たい方は、全部に目を通していただけると幸いです。
背景
「黒霧島」は霧島酒造株式会社によって、1999年5月に全国販売が始まり、現在となっては全国的にも有名な芋焼酎である。大正5年に霧島酒造株式会社の創業者、江夏吉助によって初めて醸造された焼酎を、現代の技術で再現したものが黒霧島である。『トロッとキリッと黒霧島』のキャッチコピー通り、黒霧島の特徴としては、芋の甘みを感じるとともに、後に尾を引くしつこさがないことが挙げられる。
一方で、焼酎を嗜む方法は様々で、銘柄まで考慮すれば一口に焼酎といっても味わいは多種多様である。焼酎には種々の嗜み方があるものの、お湯割り、ロック、水割り、ストレートが、広く知られた焼酎の嗜み方として挙げられる。しかし、お湯割り、ロック、水割りは作り方によって、その味わいは千変万化する。
そこで、筆者は黒霧島を水割りで嗜むための、最適な割り方を探求した。まず、水道水と黒霧島の割合を変化させてその味わい比較し、筆者の独断で最適な黒霧島と水の比を求めた。その後、水道水の代わりに、3種類の市販のミネラルウォーターを使って、最適な割合で黒霧島の水割りを作成しその味を比較し、筆者の独断で順位を決定した。
実験方法
黒霧島と水の最適な割合
最適なミネラルウォーターの決定
- 黒霧島と3種のミネラルウォーターを冷蔵庫に入れ1日静置
- 氷水を張った水浴でコップを冷却
- 冷えた黒霧島とミネラルウォーターを全量50 mLになるよう種々の体積比で計量
- 黒霧島、ミネラルウォーターの順番でコップに移し混合
- 箸で撹拌
- 筆者が試飲
結果
黒霧島と水の最適な割合
黒霧島の水割りに水道水を用いると、水道水の塩素臭さを感じた。黒霧島の割合が増加するに連れて塩素の匂いはしなくなるものの、完全には消えなかった。
黒霧島:水=1:9、2:8、3:7
黒霧島と水の割合を1:9、2:8、3:7とした黒霧島の水割りの味わいは水に近く、ほのかに、黒霧島独特の香りとアルコールの香りがする程度だった。また、3:7では、黒霧島の甘みを確認できた。
黒霧島:水=4:6、5:5
黒霧島と水の割合を4:6、5:5とすると、アルコールの刺激を強く感じるよになった。しかし、これらの割合では水っぽさが残っていた。
黒霧島:水=6:4、7:3
黒霧島と水の割合を6:4、7:3とした場合、黒霧島特有の香りと芋の甘みを強く感じた。特に7:3の場合、これらの味わいは最も強かった。飲み始めには水のまろやかさを感じ、その後にアルコールの刺激と黒霧島の香りと甘みがあった。後味が口の中に長く残ることもなかった。
黒霧島:水=8:2、9:1
黒霧島と水の割合を8:2、9:1で作製した水割りは、アルコールの刺激が非常に強かった。飲み始めから強いアルコールの刺激を感じた。黒霧島の香りと甘みは感じられたが、アルコールの強い刺激の裏に隠れるような味わいだった。
総評
試飲による筆者の独断の結果、黒霧島と水の比を6:4、7:3とした時に、最も黒霧島の香りと甘みを感じることができ、アルコールによる刺激を上回っていると感じた。したがって、6:4、7:3を最適な割合とした。
最適なミネラルウォーターの決定
水道水を用いた黒霧島の水割りは、塩素臭かったのでより美味しい黒霧島の水割りを作成するために、3種類のミネラルウォーターを用い味わいを比較した。用いた3種のミネラルウォーターは、いろはす、Asahi六甲天然水、阿蘇天然水である。また、黒霧島とミネラルウォーターの比は、黒霧島と水道水の水割りから求めた最適な6:4、7:3とした。
いろはすを用いて作成した黒霧島の水割りは、飲み始めにアルコールの強い刺激を感じた。アルコールによる強い刺激の後に、黒霧島の香りが漂った。黒霧島の香りは、3種類の中で最も後まで引いた。
Asahi六甲天然水
アルコールの刺激が3種類の中で最も強く、最も後を引いた。口に含んですぐに、アルコールの刺激を感じ、黒霧島の香りと甘みは3種類の中が最も感じられなかった。黒霧島の香りと甘みが最も弱いとも考えられるが、アルコールの刺激に打ち消されている可能性もある。
阿蘇の天然水
口に含んだ直後の口当たりはよく、アルコールの刺激は抑えられ、水のような口当たりだった。その後アルコールの刺激を感じた。しかし、アルコールの刺激は上2つよりも弱かった。そして最後に、黒霧島の強い香りと甘みを感じた。香りと甘みが長々と口の中に留まることはなかった。
総評
試飲による筆者の独断の結果、阿蘇の天然水が3種類のミネラルウォーターの中で、黒霧島の水割りに適していた。いろはすは、黒霧島の香りと甘みを最も長く感じられ、あ阿蘇の天然水は、アルコールの刺激を抑えつつ黒き島の香りと甘みを堪能でき、甲乙をつけ難かった。
しかし、黒霧島のキャッチコピー『トロッと、キリッと』に謳われた、「後に引くしつこさがない」というよさを考慮すれば、阿蘇の天然水が黒霧島の水割りには最適であった。逆に、黒霧島の香りと甘みを長く感じたいならば、上記3種の中ではいろはすが好ましい。
考察
黒霧島と水の最適な割合
黒霧島と水の水割りが美味しく感じられた、6:4、7:3ではアルコールの刺激よりも、黒霧島の香りと甘みが強かったことから、アルコールの刺激が抑えられていた可能性がある。
黒霧島の水割りの主成分は、エタノールと水である。エタノールと水の混合溶液は、エタノールーエタノール、水ー水、エタノールー水の結合(水素結合)が強いほど、エタノールの刺激が低下する。25℃のエタノールー水の混合溶液の場合、エタノールの体積が20%付近で、エタノールと水の水素結合が最も強くなることが知られている。
エタノールの体積が20%のエタノールと水の混合溶液は、一般のアルコール飲料の20度に相当する。筆者が黒霧島の水割りに用いた黒霧島も20度である。そして、筆者が美味しいと感じた、黒霧島の水割りの濃度は、6:4、7:3でそれぞれ、12%、14%である。
6:4、7:3ともに、エタノールと水の水素結合が最も強くなるエタノールの体積20%から大きく外れていなかった。このことから、筆者が美味しく感じた割合は、エタノールの刺激が抑えられる割合であるといえる。
しかし、6:4(エタノール12%)、7:3(14%)の水割りが、8:2(16%)、9:1(18%)の水割りの\よりも飲みやすかった原因は定かでない。黒霧島や水道水に含まれる、塩や有機酸などの不純物により、エタノールと水の水素結合が最も強くなるエタノール濃度が20%から低下した可能性が考えられる。水割りの温度が25℃ではなかった(冷蔵庫で事前に冷やしていた)ことも原因になり得る。さらに、黒霧島の香りや甘み成分と水やエタノールとの相互作用が小さく、6:4、7:3の場合に香りが強く、エタノールの刺激が緩和されたとも考えられる。
最適なミネラルウォーターの決定
エタノールと水の混合溶液の結合の強さは、混合溶液中に含まれるイオン、有機酸、フェノール類などの物質の影響を受ける。使用するミネラルウォーターによって黒霧島の水割りの味わいが変化した理由としてはイオンによる影響が考えられる。
イオンの種類によって、エタノールと水の結合は強められたり、弱められたりする。そこで3種のミネラルウォーターの成分表示から含まれる陽イオン(プラス電荷を持つイオン)とその濃度調べた。さらに、3種のミネラルウォーターの硬度も求め、陽イオンとともい以下の表にまとめた。硬度の算出に用いた式は以下である。
いろはす | 六甲天然水 | 阿蘇の天然水 | |||
下限 | 上限 | 下限 | 上限 | ||
Ca2+ mg/L | 7.1 | 2 | 17 | 12 | 24 |
Mg2+ mg/L | 5.5 | 1 | 11 | 6 | 10 |
K+ mg/L | 4.1 | 0.2 | 1.8 | 3 | 7 |
Na+ mg/L | 11 | 10 | 48 | 7 | 14 |
硬度 mg/L | 40 | 48(中央値で計算) | 80(中央値で計算) |
硬度(mg/L) = Mg2+の濃度(mg/L) × 2.497 + Ca2+の濃度(mg/L) × 4.118 (1)
Asahi六甲天然水、阿蘇の天然水は、陽イオンにばらつきがあり、単純な比較は困難であるが、各値の中央値(真ん中の値)を取り比較を試みた。各ミネラルウォーターに含まれる、陽イオンは以下のグラフのようになっていた。一方で、陰イオンは表示されていなかったため比較できない。
阿蘇の天然水がまろやかだった理由
3種類の水の硬度を比較すると、阿蘇の天然水の値が、他の2種よりも大きかった。
阿蘇の天然水の硬度 > 他の2種のミネラルウォーターの硬度
陽イオンの中でも、Mg2+(マグネシウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)は、水とエタノールの結合を強めるため、エタノールの刺激を抑えるはたらきがある。特にMg2+(マグネシウムイオン)の影響は大きい。
つまり、(1)式で求めた硬度が大きいミネラルウォーターほど、水とエタノールの結合が強くなり、エタノールの刺激を抑える傾向にあると考えられる。そのため、最も硬度の大きな阿蘇の天然水を使った場合、エタノールの刺激が抑えられたと考えられる。
Asahi六甲天然水といろはすの違い
Asahi六甲天然水といろはすの硬度を比較すると、ほぼ同程度だった。しかし、Asahi六甲天然水で作った水割りが3種類の中で最もアルコールの刺激が強かった。これは、Asahi六甲天然水が、3種の天然水の中で最もNa+(ナトリウムイオン)が多かったからだと考えられる。
Na+(ナトリウムイオン)は、エタノールと水の結合を弱め、アルコールの刺激を強めるはたらきがある。その結果、Asahi六甲天然水は、いろはすと硬度が同程度にも関わらず、3種の中で最もアルコールの刺激が強い水割りになったと推測できる。
結言
20度の黒霧島を水割りで飲む際は、黒霧島と水の比を6:4、7:3とすると美味しく飲めることがわかった。また、いろはす、六甲天然水、阿蘇の天然水の中で最も美味しい黒霧島の水割りを作れるのは阿蘇の天然水。