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ラクダが水を貯えられるのは赤血球のおかげ:web動物図鑑

ラクダは、一度に水を大量に飲み、血管の中に水を蓄えることができます。また、脱水状態にも強いです。

ラクダは水を血管に蓄える:web動物図鑑

これらのおかげで、ラクダは、長期間水を飲まずとも生きていくことができます。実は、このようなことができるのは、ラクダの特徴的な赤血球のおかげなのです。

砂地に立つヒトコブラクダ

大量の水を血管に蓄える問題

赤血球の溶血を示すイラスト

ラクダは、大量に飲んだ水を血管に蓄えることができます。しかし、これは、他の動物が真似しようものなら、死に至ります。

一般的に、生物の体内の塩分濃度は0.9%で一定です。しかし、水を大量に血液中に蓄えると、血液中の塩分濃度は、赤血球の細胞液の塩分濃度より低くなります。そして、浸透により血液から、赤血球の中に水が流入します。

浸透の説明と身近な現象

最終的に、これ以上水を貯め込めなくなった赤血球は、内側からの圧力によって膜が破け、中身が漏れ出てしまいます。これは、風船に空気を入れ続けると、内側からの空気圧で、風船が破裂してしまうのと同じ現象です。

赤血球の膜が破け、中身が漏れることを、「溶血」と言います。赤血球が溶血してしまうと、体の細胞に酸素を届けることができなくなります。

ラクダの赤血球は丈夫

ラクダが、水を大量に飲んでも赤血球が溶血しません。これは、他の動物に比べて、ラクダの赤血球が丈夫だからです。

ラクダの赤血球とヒトの赤血球を、様々な濃度の食塩水につけて、その様子を観察した結果があるので紹介します。

ラクダの赤血球:0.1%で完全に溶血

ヒトの赤血球:0.35%で完全に溶血

(通常の生体の塩分濃度は0.9%)

また、赤血球の一部が、溶血を開始する濃度も、ラクダの方が低いです。

ラクダの赤血球:0.2%で溶血開始

ヒトの赤血球:0.5%で溶血開始

(通常の生体の塩分濃度は0.9%)

このように、ラクダの赤血球は他の動物のそれより、溶血しにくいので、血管内に水を蓄えることができます。

ラクダの赤血球が丈夫な理由に対する、完全な答えは出ていませんが、部分的には、様々なことがわかりつつあります。現在までにわかっていることを、以下で詳しく解説しています。

ラクダの赤血球が塩分濃度変化に強い理由:web動物図鑑

脱水状態による問題

赤血球の鋸歯状化のイラスト

ラクダは、脱水状態にも強い動物です。ラクダと同様な脱水状態におかれた多くの動物が、死に至ります。ここでは、血液中の水分が少なくなった(脱水状態)の時の、赤血球について注目します。

血液中の水分が少なくなると、血液中の塩分濃度は上昇します。その結果、血液中の塩分濃度は、赤血球の細胞液の塩分濃度よりも高くなります。そして、浸透により、赤血球から、血液へ水が流出します。水の抜けた赤血球は、縮み、角ばり(鋸歯状化)ます。

ラクダの赤血球は鋸歯状化しにくい

ラクダの赤血球は、血液中の水が少なくなっても、鋸歯状化しにくいです。ここでも、ラクダの赤血球と、ヒトの赤血球とを比較した結果を紹介します。

ラクダの赤血球:20%で鋸歯状化が始まる

ヒトの赤血球:1.2%で鋸歯状化が始める

(通常の生体の塩分濃度は0.9%)

(海水の塩分濃度は3.5%)

ラクダの赤血球は、ヒトのそれに比べ高濃度の食塩水中でも、形が変化しません。このことから、ラクダは長期間水を飲まなくても、生きていけることが、何となく分かると思います。

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