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ラクダの赤血球が塩分濃度変化に強い理由:web動物図鑑

ラクダは、暑く乾燥した地域で、生き抜くことできるように、血管に大量に水を貯えたり、脱水状態におかれたりしても命に別状はありません。

ラクダは水を血管に蓄える:web動物図鑑

これは、他の動物の赤血球が溶血し(壊れない)たり、形状が変わったりする塩分濃度でも、ラクダの赤血球はこのような変化が生じないからです。つまり、血液の塩分濃度変化が起きても、ラクダの赤血球は変化が起きにくく正常な状態を保てるのです。詳しくは、以下を参考にしてください。

ラクダが水を貯えられるのは赤血球のおかげ:web動物図鑑

浸透の説明と身近な現象

前置きが長くなりましたが、なぜ、ラクダの赤血球は、他の動物の赤血球に比べて、塩分濃度の変化に対して耐性があるのでしょうか。これに対して、完全な答えは出ていませんが、部分的にはわかっています。ここでは、現在までにわかった、この質問に対する答えを見ていきましょう。

砂地に立つヒトコブラクダ

赤血球が楕円形でヘモグロビンが多い

ラクダとヒトの赤血球とヘモグロビンの比較

ラクダの赤血球に含まれるヘモグロビンの割合は、他の動物よりも大きいです。

~ヘモグロビン~

赤血球に含まれるタンパク質で、酸素と結びつく。赤血球の中の、ヘモグロビンと酸素が結びつき、赤血球が血流にのって肺から全身まで酸素を運ぶ。

ラクダの赤血球に含まれるヘモグロビンの割合が、他の動物に比べて、大きい理由は2つ考えられています。

一般的に、動物の赤血球は、円盤状で両面の中央部が凹んでいます。一方で、ラクダの赤血球は、楕円形で、中央は凹んでいません。また、他の動物の赤血球に比べ、ラクダの赤血球のは薄いです。

そのため、ラクダは他の動物に比べ、赤血球の体積が小さく、赤血球内にヘモグロビンが、より密に詰まっていると考えられます。

一方で、ラクダの赤血球に含まれるヘモグロビンの量が、単純に他の動物に比べて多いということも考えられます。

いずれにせよ、ラクダの赤血球は、多少水分を吸ってもヘモグロビンの割合が大きいため、酸素を運搬する機能は低下しにくく、効率的に酸素を全身に運ぶことができます。

スペクトリンというタンパク質のおかげ

血液中の塩分濃度が低下して、赤血球に水分が流入しても、ラクダの場合、赤血球は破裂しにくいです。これは、ラクダの赤血球の細胞膜が、他の動物に比べて丈夫なためです。

ラクダの赤血球の細胞膜が丈夫な理由が、細胞膜に含まれる「スペクトリン」という名の、タンパク質にあるという説があります。スペクトリンを取り除くと、ラクダの赤血球の細胞膜は、形状を維持できず、ばらばらになることが明らかになっています。

また、細胞膜に常に固定されている、膜内在性タンパク質と呼びます。膜内在性タンパク質が作る「内在性骨格」が、赤血球の細胞膜を支えているという報告もあります。しかし、これを提唱するにはまだ、証拠不足な気がします。

脂質の成分の割合

脂質の成分の割合も、赤血球の細胞膜の丈夫さに影響すると言われています。一口に脂質と言っても、様々な成分が含まれています。今回注目するのは、脂質のグループの一つ「リン脂質」です。

リン脂質も様々な種類があります。ここで注目するのは以下です。

  • スフィンゴミエリン
  • ホスファチジルコリン
  • アミノリン脂質

ラクダと他の動物の赤血球の細胞膜に含まれる、上記の成分を比較すると、ラクダの赤血球の細胞膜には、スフィンゴミエリンとホスファチジルコリンが多く含まれる一方、アミノリン脂質の量が少ないことがわかっています。

赤血球の細胞膜に含まれる、スフィンゴミエリンとホスファチジルコリンの量が多く、アミノリン脂質の量が少ないほど、赤血球の細胞膜は丈夫になると言われています。これは、ハムスターの赤血球を加熱して、細胞膜の丈夫さを調べる実験などで確認されています。

この結果から、脂質の成分の割合も、ラクダの赤血球の細胞膜が丈夫であることに、大きく関係していると考えられます。

一言

ラクダの赤血球とヒトの赤血球の細胞膜に含まれるタンパク質と脂質の比を比較すると、タンパク質分の脂質の量がラクダはヒトは3倍です。このことから、タンパク質間の相互作用が重要な働きをするといった報告や、タンパク質と脂肪の相互作用が重要といった考えが提唱されています。また、赤血球の形に注目して議論されることもあります。いずれにせよ、ラクダの赤血球の丈夫さに関してはまだ研究が必要と思われます。

絵が少なくてすいません。でも、こんなに興味深いことは、記事にせずにはいられませんでした。

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