りけイノシシのweb〇〇

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ウシの反芻と4つの胃:web動物図鑑

ウシには胃が4つあり、反芻することを知っている方は多いと思います。ここでは、反芻についてウシを例に紹介します。

~反芻~

口で食べの物を噛み、飲み込んで食べ物を一部消化した後に、一度口に戻して再び噛んでから飲み込み消化すること。

草の上に立つウシ

反芻する動物は?

反芻について見ていく前に、反芻する動物には、どのような動物がいるか見てみましょう。反芻をする動物は以下です。

  • ウシの仲間
  • ラクダの仲間

少し前までの、動物の分類法を使うなら、「偶蹄目と呼ばれる、ひづめの数が偶数の動物の一部」が、反芻をします。(ひづめが偶数でも反芻しない動物もいます。イノシシの仲間が例です。分子生物学的な解析により偶蹄目という系統の分類に修正が加えられました。)

食物繊維とウシの4つの胃

動物にとって、食物繊維とは非常に消化しにくい成分です。草食動物は、このような食物繊維を消化するための消化器官を、発達させてきました。

ウシの4つの胃のイラストと文字

特にウシなどの反芻を行う動物は、食物繊維を消化できるように、胃を発達させました。冒頭にも述べたように、ウシには4つの胃があります。4つの胃袋を合わせると腹部の75~80%程度にもなります。以下では、ウシの消化の仕組みを理解するために、各胃の役割と反芻について見ていきましょう。

第1胃(ルーメン)は発酵タンク

ウシの4つの胃と第1胃の役割説明
第1胃は「ルーメン」とも呼ばれます。第1胃は、4つの胃の中で最大で約120 Lにもなります。小柄な人なら、ルーメンに収まってしまうでしょう。

第1胃には、バクテリアやプロトゾアといった微生物が住みついています。第1胃では、これらの微生物が、ウシが食べた植物を分解して、栄養分(酢酸、プロピオン酸、脂肪酸アミノ酸、ビタミン)を作ります。この微生物が食物繊維を分解するプロセスは発酵です。人間がヨーグルトやチーズ、お酒、みそを利用している発酵と同じプロセスです。さらに、微生物にはアンモニア尿素を分解して、タンパク質を作る働きもあります。

第1胃の中の微生物は、食物繊維を分解した際に生じるエネルギーを用いて増殖します。また、微生物が増殖するためには、体を作る材料が必要です。この材料には、ウシが食べた植物を分解して得られる栄養分が一部使われます。これでは、ウシが必要とする栄養分が微生物に食べられていると思われるかもしれません。

大丈夫です。ウシは第4胃で増殖した微生物を消化して栄養にしています。そのため、微生物に第1胃で生じた栄養を取られても、最終的にはウシの栄養になるのです。

第2胃は反芻のためのポンプ

ウシの4つの胃と第2胃の役割説明
第2胃の主な役割は、反芻をするための調整とポンプの役割です。第2胃は、収縮と弛緩を繰り返します。この動きがポンプの役割を果たし、食べ物の一部が、口に戻ります。これが反芻です。反芻を行う理由は、食べ物を口に戻し咀嚼して、消化しやすくするためです。また、食べ物を噛むことで、唾液が分泌されます。この唾液は、第1胃での、微生物による植物の分解が進行する条件の維持に役立っています。

また、第2胃は収縮と弛緩を繰り返すことで、第1胃内の食べ物が混ざり、微生物を増殖しやすくするとともに、発酵を進める働きもあります。

第3胃では水分を吸収

ウシの4つの胃と第3胃の役割説明

第3胃はひだで覆われています。第3胃の主な役割は、水分を吸収することです。また、大きな固形物を、ひだの間に挟んで細かく破砕する役割もあります。

第4胃だけが食べ物を消化

ウシの4つの胃と第4胃の役割説明

 

第4胃だけが消化作用のある胃です。第4胃では、人間の胃と同じように胃液を出し、胃液に含まれる消化酵素で、第1胃で増殖した微生物を栄養分にまで消化します。そして、微生物が使わなかった栄養分とともに、腸に送り出され吸収されます。

第4胃が人間の胃の部分に相当します。第1胃から第3胃までは、食道が発達した器官で、反芻を行う動物独自のものです。

ウシは塩を舐める?

ウシは定期的に塩をなめる必要があります。もちろんこれは、人間や他の動物と同様に、ウシも塩などのミネラルを定期的に摂取する必要があることも理由のひとつです。

しかし、ウシなどの反芻を行う動物は、塩をなめなければいけない理由がもうひとつあります。その理由は、第1胃の中を中性に保つ必要があるからです。

第1胃の中には植物を分解する微生物が住んでいます。微生物も我々人間と同様に、生物であるため、中性でないと生きていけません。ところが、第1胃の中で、植物が分化されて生じる物質には酸性のものが多く含まれます。その結果、植物の分解が進めば進むほど、第1胃の中は酸性に近づいていきます。第1胃の酸性化が進めば微生物は死んでしまいます。

そこで、ウシが定期的に塩を舐めることで、唾液に炭酸水をナトリウムが含まれるようになり、アルカリ性になります。そしてこの唾液を飲み込むことで、酸がアルカリにより中和され、第1胃の酸性化を防ぎます。

一言

知っているかもしれませんが、ウシのゲップにはメタンガスが含まれ、地球温暖化の原因に挙げられる場合があります。このメタンガスは、ウシの第1胃で、微生物が植物を分解する過程で生じる副産物です。メタンガスを栄養分として使うことは、できないため、ウシはゲップとして体外に排出しています。

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